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地質課の話(一)
今回から、地質課の話です。今から54年前の明延鉱山地質課の話です。 この時代は、戦後の混乱から、落ち着きを取り戻し、国内鉱山は戦後最盛期を迎えようとしていました。 今、団塊の世代と呼ばれる昭和22、23、24年産まれの人が小学校入学前です。

文章を通じて、当時の日本人の気概を感じます。 また、その内容は半世紀前のことながら、決して古くなく、現代に通用すると思います。

例によって、元のままの漢字、仮名づかいです。原文は縦書きとなっています。
地質課は鑛山の中樞神經
科學的探鑛と、鑛山の壽命を永くそして資料の完全保存を

ある米国人が「鉱山操業の中心は分析にある」といったが、確かに採掘の対象となる鉱量計算にしても、 選鉱、製錬の成績も全く分析に依って決定される。
では採鉱の操業の中心は何かというとそれは地質である。 昔のように名人や人間の「感」によって操業して居た時代はともかく、 現代のように総てが科学的に経営されねばならない時代には、確かにこのことは正しい。 しかし今尚これ等のことは一般に理解されて居ないし、 またその課の課員もそれを自覚して居ないのではないかと思われる。 と語られる三枝課長にこれから地質課が何故採鉱の中心であるかを、御伺いした。 三枝課長は卜部課長の後に細倉から昨年十一月転任された三十八才の、 テキパキと仕事をかたずけられる頭脳明晰な方。創生期の地質課を充実、改善されつゝあり、 課員の教育にも絶大なる力を注がれている。その蔵書は相当な数量にのぼり、 性愚鈍なる小生が一寸お尋ねしても、分厚い原書をパラパラと示されて豊富なる知識を披瀝される。 将にヱンサイクロペヂア(百科事典)である。

「地質課はどんな仕事をやられるんですか、その任務、仕事の内容について判りやすくお話し下さると有難いですがー」
「そうですネ、まづ地質課の任務についてお話しましょう。 地質課の任務はと問われると、大抵の地質技師は、新鉱床の発見である≠ニいわれますが、 私はそうでなく、先づ第一に
「採鑛經費の引下げに助力することである」といゝたいのです。 このことは、採鉱課に、坑道探鉱は勿論、切羽の採掘に関しても、 地質学的な根拠ある資料を提供して絶対に無駄をさせないということです」
「例えばどういう風ですか」
「それはネ、つまり、坑道探鉱に例をとるとこの切羽は中止すべきである 又は現在悪くても三十メートル先でよくなるから続けてやるべきだ≠ニいうことを的確に進言して、 一発破二万円近くもする坑道を無駄に切らせないようにし、又採掘についても、 鉱脈の傾斜の変化とか両盤の変化などを予め通知して、採掘法を誤らないようにし、 一塊の鉱石も坑内に残さないように、或いは品位を下げないにお互いに力を合わせて助け合うことです」
「私達素人は地質課というと鉱脈の発見新鉱床を見つけて行くことだと思っていたんですがー」
「それはそうなんですがネ、然し新鉱床の発見というものは、実際は大変困難でしてネ、 特に露頭のある鉱脈はどんどん採掘して来ましたし地下に潜んでいる鉱脈を探さねばならないから、 一人の鉱山技師が、その一生のうちに一つの鉱脈を発見することが出来たら、 それは余程優秀な人か、或いは偶然で運のいゝ人ですよ」
「ほうそんなもんですか、僕なんか直ぐ見つかるものかと思っていましたがー」
「そうは行きません。それでネ、先づ無駄をなくして採鉱経費の切下げに協力することが重要なんです。 これは地質について少し勉強した人なら誰でも出来ることなんです」
「そうしますと、地質課で重要なことはー」
「いや皆重要なことなんですが、さつきもいつたように第二は
「鑛山の壽命を長くさせる」ということ、このことは新しい鉱床を次ゝと発見し、鉱量の増加を計り、 又一方で確定された鉱量を置き忘れないようにして、完全に採掘し得るように進言することです、 第三は
「将来のために現在の資料を完全に保存する」ということ、このことは、 鉱山は掘ってしまえば後に何も残らないんです。又資料が残されていなかったり、 或いは不完全ですと、水に没したとき、又は休山した後、 その鉱山を復活させる場合完全な計画を樹てることが出来ないんです。 一度休山した鉱山が再調査のため入坑し得る坑道延長は全体の三分の一であると、 アメリカでいわれています。この明延でも、 現在は坑道延長の三分の一しか入坑出来ません完全な資料を残すということは、今いった前に、 新鉱床を探す上にも絶対に必要なことです。 資料がないために再調査する労力と経費は決して少ないものではないんです」
「それはそうでしょう」
「この三つを完全に実行するのが地質課の任務なんです。これ等のことは、 アメリカのビュート鉱山の地質部長である、 セールスという人が採鉱の唯一の参考書ともいわれるピールのハンドブック中に書いています」
「いや有難う御座いました。地質課の任務はわかりましたが、こゝでは仕事をどんな風に分けてやっていれれるんですか」


今回はここまでです。
次回から実際の仕事にはいっていきます。
いつもながら、読み辛い文章にお付き合いいただき、ありがとうございます。
次にお目にかかるのは、師走、誠に月日は早いものです。それではお体大切に。

お問合せ:あけのべ自然学校  電話079−668−0258

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Create:2006.11.26